亡くなった夫の財産のなかに、妻である私名義の普通預金がありました。私は専業主婦なので収入はありません。
したがって、この預金は私の名義であっても夫の給料を貯めたものですから、夫の財産として相続税がかかると聞き
ました。この場合、遺産分割協議書はどのように書くのでしょうか。また銀行の手続きはどうすればよいのでしょうか。
夫の財産のうちに、妻名義の預金が含まれていることがあります。妻が専業主婦で収入がない場合などは、妻名義の預金であっても、実質的には夫の財産として相続税がかかります。妻が夫に内緒で貯めたヘソクリについても同じです。
さて、夫が死亡した場合、妻名義の預金は、遺産分割協議書にどう書くのでしょうか。また、銀行にはどう対応すればよいのでしょうか。
● 妻名義の預金を名義どおり妻が相続する場合
この場合は簡単です。銀行から見れば妻名義の預金が妻名義のままになっているだけですから、銀行に対しては何も手続きをする必要がありません。
ところが、税務署に対してはそうはいきません。税務署は、妻名義の預金でも実質的に夫の財産とみますから、もし相続税の申告書に妻名義の預金が載っていないと、税務署は相続税の申告書に妻名義の預金を追加して、足りない相続税を払うように要請してきます。税務署はあくまで実質に基づいて課税するからです。追加して払う延滞税等のペナルティーがかかります。
<遺産分割協議書の書き方>
① 銀行に提出する遺産分割協議書には妻名義の預金を記載する必要はありませんが、税務署に対しては、妻名義の預金を妻が
相続したことを明らかにする必要があるため、遺産分割協議書には次のように記載します。
〇〇銀行 〇〇支店 普通預金(配偶者名義)口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
② また、妻名義の預金を記載しない遺産分割協議書を作成して、協議書の末尾に、「本遺産分割協議書に記載のない遺
産については、相続人(妻の氏名)がこれを相続する」などと記載しておく方法もあります。
● 妻名義の預金を妻以外の相続人が相続する場合
妻名義の預金を、妻以外の相続人(例えば長男)が相続することは、銀行の手続上難しいでしょう。銀行は妻名義の預金は妻の財産としかみないからです。夫が死亡したからといって、銀行は妻の預金を勝手に動かすことはできません。妻名義の預金を夫の財産と考えるのは税務署だけです。
どうしても妻名義の預金を長男に相続させたい場合は、預金の名義を妻から長男に変更することはできませんから、銀行に頼んで、妻名義の預金を解約して長男の口座に振り込んでもらうことになります。
しかし、こうすると妻又は夫から長男に対して贈与が行われたとみられて、贈与税の問題が生じかねません。
したがって、名義預金を相続するのは、名義人だけと考えて対応することになります。
(参考)代償分割を利用する方法
妻名義の預金を長男が相続するために、「代償分割」を利用することもできます。
代償分割というのは、この例で言いますと、とりあえず妻が預金を全て相続して、長男が相続したい分を、妻が現金などで長男に渡す方法です。この場合、妻から長男に渡した現金などに贈与税がかかることはありません。妻が長男に渡す現金などの原資は、妻が持っている固有の財産でも、相続で得た財産でもかまいません。
代償分割を利用する場合は、遺産分割協議書に、妻名義の財産を表記した上で次のように記載します。
相続人〇〇〇(妻の氏名)は、前項に記載する財産を取得する代償として、相続人〇〇〇(長男の氏名)に対して金〇〇万円を、令和〇年〇月〇日までに支払うものとする。
2021.11.10