1.青色申告の承認申請は会社設立から3か月以内に
会社の設立に税理士や会計士が関係している場合は、青色申告の承認申請書の提出を忘れることはまずありません。ところが、行政書士に設立登記の手続きだけを委任する場合などに、青色申告の承認申請書の提出を失念しているケースがよく見られます。
青色申告の承認申請書は、通常は会社設立の日以後3か月を経過した日の前日(設立の日を5月3日とすると8月2日)までに税務署に提出しなければなりません。
青色申告で法人税の申告を行えば、その事業年度が赤字でも、赤字を翌事業年度以降に繰越して法人の所得から差し引くことができます。
設立第1期目は売上が立たず、反面初期費用がかさむため赤字になることが多いものです。青色申告の承認申請書の提出を忘れてしまうと、せっかくの(?)赤字を翌事業年度以後に繰越して使うことができなくなり、税金の上で損をすることになります。
2.創立費や開業費を繰延資産として処理
では、もし青色申告の承認申請書の提出を忘れてしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。
この場合の対策として、「どうせ赤字が出ても繰越せないのだから、赤字は出さないでおこう」とする方法があります。
全ての新設法人に発生する費用として「創立費」があり、また多くの新設法人について発生する費用に「開業費」があります。これらの費用は、設立第1期目に費用として経理することが一般的ですが、あえて費用とせずに、「繰延資産」として貸借対照表の資産の部に記載しておくことができます。
「繰延資産」というのは、支出の効果が将来にわたってあらわれる費用のことです。例えば創立費の支出の効果は、支出した事業年度ばかりではなく会社が存続する限り続きますから、創立費は繰延資産になり得ます。
繰延資産は、、名前は「資産」ですが、実は「費用」です。費用ではあっても、支出の効果が将来に及びますから、支出した事業年度に全額費用として処理してしまうのでは理屈に合いません。そこで、一旦資産として経理して、将来にわたって償却していこうと考えるのです。その意味では、建物や機械などの減価償却資産と似ています。
創立費や開業費を繰延資産とすることは、これらの費用を費用として経理しないで、一旦棚上げして資産にしておくということです。こうして繰越された繰延資産を翌事業年度以後に償却することで、赤字を繰り越したのと同じ結果が得られます。
繰延資産の種類 | 内容 |
償却期間 (会計上) |
償却期間 (税務上) |
創立費 |
設立登記までに要した費用 (例) 定款作成費用 設立登記の登録免許税、 発起人の報酬等 |
5年 | 自由償却 |
開業費 |
設立当期後営業開始までに要した費用 (例) 広告宣伝費 事務所家賃 借入金の利息等 |
5年 | 自由償却 |
開発費 | 新技術、市場開拓に要した費用 | 5年 | 自由償却 |
株式交付費 | 3年 | 自由償却 | |
社債発行費 | 償却期限内 | 自由償却 |
ところで、創立費は定款の作成や設立登記に要した費用などに限定されますが、開業費の範囲は明確に限定できないことが多いようです。会社設立から営業開始までの期間に生じた費用が開業費ですが、開業準備期間と開業後の期間との線引きは実際上困難な場合が多いのが現状です。
また、法人成りにより会社を設立する場合は、通常は開業準備のための期間がないと考えられますから、多額の開業費を計上するのは無理があると思われます。
2.繰延資産の償却について
1.の表の繰延資産は、償却することによって費用化されていきます。これらの繰延資産の償却については、会計上は5年または3年等の償却期間が定められていますが、税務では自由償却が認められています。自由償却が認められるというのは、簡単に言えば、いつ、いくらでも(全額でも一部だけでも)法人の任意の償却ができるということです。
したがって、ある事業年度に多額の利益がでたため全額償却してもよいし、それほど利益が出なければ一部を償却してもよいことになります。また、償却をしないで長期にわたって資産の部に残しておくこともできます。いずれの場合でも利益調整として税務上問題になることはありません。
2016.5.3