親会社Aは、子会社Bの社長を被保険者、受取人を親会社Aとする終身保険契約を締結しているが、このたび、この保険契約を子会社Bに名義変更することにした。親会社Aにおいて積み立てられてきた保険積立金は3000万円、名義変更時に解約したと仮定した場合の解約返戻金は2000万円である。
尚、子会社Bへの名義変更は有償であり、名義変更の対価は2000万円とする。
① この場合の経理処理はどのようにすればよいか。
② 保険積立金残高3000万円と解約返戻金相当額2000万円との差額▲1000万円を損金として処理して税務上の問題はないか。
① 経理処理は、次のとおりのである。
(親会社A) 現預金 2000万円 / 保険積立金 3000万円
譲渡差損 1000万円 /
(子会社B) 保険積立金 2000万円 / 現預金 2000万円
② 譲渡差損1000万円は税務上損金の額に算入することができる。但し、解釈によっては問題がある。
ポイントとなるのは、保険契約に関する権利をいくらで評価するかである。
1.保険契約に関する権利を解約返戻金相当額で評価する場合
質問の場合、保険契約に関する権利は2000万円(解約返戻金相当額)で評価されているが、この評価額が妥当であれば、経理処理は上記「結論」に示すとおりである。即ち、親会社Aは、保険積立金として3000万円で資産計上してあるものを、適正な評価額2000万円で子会社Bに譲渡したのだから、差額1000万円は通常の損失として経理処理され、税務上も損金の額に算入される。
2.保険契約に関する権利を保険積立金の額で評価する場合
他方、保険契約に関する権利を解約返戻金相当額の2000万円ではなく、親会社Aが積み立てた保険積立金である
3000万円で評価するという考え方もある。この考え方によれば、親会社Aは評価額3000万円の保険契約に関する権利を2000万円で子会社Bに譲渡したことになるため、差額1000万円は子会社Bに対する寄附金として経理処理され、税務上寄附金の損金算入について限度額計算が行われる。損金算入限度額を超える部分の金額は損金の額に算入されない。
上記2のように、保険契約に関する権利を保険積立金の額で評価する立場によると、経理処理は次のようになる。
(親会社A) 現預金 2000万円 / 保険積立金 3000万円
寄附金 1000万円 /
(子会社B) 保険積立金 3000万円 / 現預金 2000万円
受贈益 1000万円
このように、保険契約に関する権利を「解約返戻金相当額」で評価するか、「保険積立金の額」で評価するかで、経理処理の方法も税務上の取り扱いも異なってくる。
法人から法人へ名義変更した場合の評価額に関して具体的に定めた通達等がないため、合理的な判断に基づいていずれかの方法を選択しなければならない。質問のように、解約返戻金相当額が保険積立金の額より少ないときは、解約返戻金相当額を評価額とした方が税務上有利であるが、税務調査において、親会社Aの側でいわゆる「損出し」を行っているのではないかと指摘されることがある。
ところで、所得税では、使用者が役員または使用人を被保険者として使用者を受取人としている生命保険契約を締結している場合に、その役員または使用人の退職に際して、その保険契約を役員または使用人に名義変更するような場合には、その保険契約に関する権利は退職所得として課税されることになっている。
この場合、保険契約に関する権利は、解約返戻金の額により評価することとされている(所基通36-37)。
これは所得税の規定であり、主に会社から個人への保険契約の名義変更を想定した規定であるが、法人から法人への名義変更においても同様の評価方法によることが妥当ではないかと思われる。
上記の記述は、2012年8月18日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2012.8.18