当社は資本金300万円の株式会社である。黒字が続き利益剰余金があるので、利益剰余金を資本に組み入れて増資を行い、資本金を1000万円にしたい。具体的な手続きを教えてほしい。また、増資することよって税務上の問題は生じないか。
増資の登記を行い、税務署等に届出書を提出すれば手続きは完了する。増資の結果資本金が1000万円になると消費税や事業税において税務上不利になる場合がある。
潤沢な利益剰余金がある場合、利益剰余金を資本に組み入れれば、金銭の払い込みをしないで帳簿上の振替だけで増資を行うことができ、資金的に有利である。
<仕訳> 利益剰余金 700万円 / 資本金 700、万円
1.増資の手続き
増資の形態には、金銭の払い込みによる増資や現物出資による増資などがあるが、これらとは別に利益剰余金を資本に組み入れることによる増資も認められている。この場合、発行済株式総数は変動しない。
増資の手続きは、株主総会で増資をする旨の決議した後、所定の書類を添付して登記申請すればよい。登記が完了したら税務署等に届出書を提出する。注意点は次のとおりである。
● 増資により授権資本の枠を越えることになる場合は定款の変更が必要になる。
● 利益剰余金の額を証明するために会計帳簿などを添付する必要はない。
● 増資額の0.7%(最低3万円)の登録免許税が必要になる。
2.税務上の問題点
① 「みなし配当」は生じない
平成13年3月の法人税法改正までは、利益剰余金を資本に組み入れると「みなし配当」が生じることとされていた。即ち、資本組入は配当可能利益を一旦金銭で分配し、しかる後に増資したものとと考えられるから配当とみなして原則20%の課税を行うというのである。多くの法人はこのみなし配当のハードルを越えられずに増資の機会を逃してきた。
しかし、現在では利益剰余金の資本組入を行ってもみなし配当は生じないこととされているため、みなし配当の妨げを受けずに増資を行うことができる。
② 他の税務上の問題
利益剰余金の資本組入に限らないが、増資を行うことにより税務上不利になる場合がある。増資した結果、資本金が
1000万円以上になっても1億円以下であれば多少の問題が生じるだけであるが、1億円を越える場合は税務上の損失が大きい。
増資による税務上の問題点
増資後の資本金が1000万円以上1億円以下の場合 |
消費税の免税規定が適用されない場合がある。 |
3以上の都道府県に事務所等がある法人は、事業税の軽減税率が適用されない。 |
増資後の資本金が1億円超になると、上記に加えて次のような問題が生じる |
法人税の軽減税率(18%)が適用されない。 |
交際費は全額損金不算入となる。 |
30万円未満の少額減価償却資産の損金算入の規定が適用されない。 |
留保金課税(同族会社に対して行われる特別の課税)が適用される場合がある。 |
欠損金の繰戻し還付制度の適用が受けられない。 |
事業税において外形標準課税が適用される。 |
③ 法人税申告書作成の上での実務上の注意点
利益剰余金の資本組入を行うと、法人税申告書別表5(1)は次のようになる。下記は、資本金300万円の法人が期中に利益剰余金700万円を資本に組み入れたことにより、期末資本金の額が1000万円になったケースである。
Ⅰ利益積立金額の計算に関する明細書
区分 |
期首現在 利益積立金額 |
当期の増減 |
差引翌期首現在 利益積立金額 ①ー②+③ |
||
減 | 増 | ||||
① | ② | ③ | ④ | ||
利益準備金 | 1 | ||||
積立金 | 2 |
•
•
•
24 | |||||
資本金等の額 | 25 | 7,000,000 | 7,000,000 | ||
繰越損益金(損は赤) | 26 | 7,000,000 | -7,000,000 | ||
納税充当金 | 27 |
•
•
•
Ⅱ資本等の額の計算に関する明細書
区分 |
期首現在 資本金等の額 |
当期の増減 |
差引翌期首現在 資本金等の額 ①ー②+③ |
||
減 | 増 | ||||
① | ② | ③ | ④ | ||
資本金又は出資金 | 32 | 3,000,000 | 7,000,000 | 10,000,000 | |
資本準備金 | 33 | ||||
利益積立金額 | 34 | -7,000,000 | -7,000,000 | ||
35 | |||||
差引合計額 | 36 | 3,000,000 | 3,000,000 |
上記の記述は、2012年12月25日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2012.12.25