当社は同族会社だが、前事業年度に係る株主総会で、代表取締役に2000万円の役員賞与を支給する旨の決議をし、期限内に所轄税務署に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出した。
しかし、実際には代表取締役に対して毎月定額で800万円の役員報酬を支給していたため、結果として赤字になり、役員賞与を支給することができなくなった。この場合、所轄税務署に届け出た金額を支給しなかったことになるが、ペナルティはあるか。
ペナルティはない。
1.制度の概要
平成18年の税制改正により、法人が役員に支給する事前確定届出給与について損金算入が認められることになった。
「事前確定届出給与」とは、役員の職務について所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与であって、所定の期限までに所轄の税務署長に対してその定めの内容、即ち、いつ・誰に・いくらを支給するか等の事項を届け出ているものをいう。
事前確定届出給与にあっては、あらかじめ税務署長に対してその給与の支給時期及び各支給時期における支給金額等を届け出ることが損金算入の要件となっている。したがって、税務署長に届け出た支給額と実際の支給額とが異なる場合には、この要件を満たさないことになるため、原則として、その支給額の全額が損金不算入となる(法基通9-2-14)。
2.現実の問題として
しかし、現実には資金繰り上の理由から届け出た確定額を支給できないことは、会社運営上あり得ることである。
この場合、株主総会等で確定した給与が支払われない訳であるから、会社と役員との間にトラブルが発生する可能性がある。しかし、役員が株主を兼ねている通常の同族会社の場合にはこのようなトラブルが起こることは少ないし、仮に起こったとしても、民事上の問題であり税務上の問題ではない。
3.税務上の問題はあるか
質問のケースについて、あえて税務上の問題を探してみると次の事項が考えられる。
● 過大役員報酬
事前確定届出給与として届出た金額を支給できなかったのは、毎月の役員報酬800万円が過大であったためである。法人がその役員に対して支給する給与のうち、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しない(法法第32条第2項)のであるから、月額800万円の役員報酬のうち過大と認められる部分の損金算入は認められない。
<反論>
基通9-2-14は、会社が役員報酬を損金経理していることを前提としたものであるが、会社は現実に損金経理をしていないのであるから通達の適用には無理がある。
また、役員報酬は役員の職務執行に対する経常的な給与であるのに対し、役員賞与は会社の業績に基づいて支給され
る一種の成果報酬であるから、両者を関連付けて議論することはできない。
● 源泉徴収義務違反
株主総会等で確定額を支給することが決定された以上、確定額を支給したものとして源泉徴収する必要がある。
<反論>
株主総会等で支給時期と支給額が確定していても、実際に支給が行われておらず、未払計上もしていない以上、源泉徴収をする必要はない。
4.経費の「枠取り」として使われるケース
事前確定届出給与の届出をする場合、確定額を支給するかしないか決まっていないにもかかわらず、「とりあえず」届け出だけしておいて、届け出た支給時期の間近になって、実際の損益を見ながら支給するか否かを決めるケースもある。
この場合は、確定額の事前届出という制度が、経費の「枠取り」として使われていることになる。事前確定届出給与の届け出は、まず株主総会等の決議があり、その決議に基づいて所定事項を税務署長に届け出ることによって損金算入が認められるものであるから、このような制度の利用の仕方は、制度の趣旨に沿ったものであるとは言えない。
上記の記述は、2014年11月3日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2014.11.3