株式(非上場)を、1 個人から個人へ ・2 個人から法人へ ・3 法人から個人へ ・ 4 法人から法人へ、それぞれ低額譲渡した場合の課税関係はどうなるのか、ケースごとに教えてほしい。
低額譲渡した場合の課税関係は次のようになる。個人から個人へ譲渡した場合の譲渡者(下表1の左)以外は、広い意味での時価に基づいて課税される。
譲渡者 | 譲受者 | 課税の基礎となる価額 | |||
1 | 個人 | 所得税(譲渡所得) | 個人 | 贈与税 | 譲渡者=収入すべき売却価額/譲受者=時価 |
2 | 個人 | 所得税(譲渡所得) | 法人 | 法人税 | 譲渡者・譲受者=時価 |
3 | 法人 | 法人税 | 個人 | 所得税(一時所得等) | |
4 | 法人 | 法人税 | 法人 | 法人税 |
1.個人から個人への低額譲渡
① 譲渡者(個人)の課税関係
イ 通常の場合
個人が時価より著しく低い価額で株式(非上場、以下同じ)を譲渡した場合は通常損失が発生するから、譲渡した個人に所得税が課税されることは少ない。法人に対する低額譲渡の場合のように、時価による譲渡があったものとみなす「みなし譲渡課税」(所法59条①二)の適用がないため、時価がいくらであるかにかかわらず、いかに低額の譲渡であっても現実に収入すべき売却代金をもとに譲渡所得(損失)を算定する。
ロ 譲渡損失の取り扱い
上記イで、個人が、時価の2分の1未満の金額で個人に対して譲渡した場合に生じた譲渡損失は、なかったものとみなされる(所法59条②、所令169条)。
即ち、時価の2分の1以上の対価で譲渡した場合の譲渡損失は他の株式の譲渡所得と損益通算できるが、時価の2分の1未満の低額譲渡により発生した損失はなかったものとみなされるから損益通算はできない。
ハ 譲渡対価が取得価額を超える場合
時価より低い価額で譲渡した場合であっても、譲渡対価が取得価額を越えていれば、その差額に対して所得税が課税される。例えば、会社設立の際払込代金100で取得した株式(譲渡時の時価1000)を300で譲渡した場合は、譲渡対価300と取得価額100との差額200に対して所得税が課される。
② 譲受者(個人)の課税関係
個人が時価より著しく低い価額で株式を譲り受けた場合は、その譲渡対価と時価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす(相法7条)。
<時価と著しく低い価額>
ここにいう時価は、実務的には財産評価基本通達により評価した価額であるが、問題となるのは譲渡対価が「著しく低い」かどうかの判定である。
この点について相続税法は判定基準を設けていない。法人に対する譲渡の場合のように時価の2分の1未満を「著しく低い価額」とする基準(下記2.①イ参照))を適用するものでもない。
尚、時価を相続税評価額とした場合の相続税評価額は、評価通達に定める相続税評価額そのものであるから、法人税等相当額を控除した価額である。
2.個人から法人への低額譲渡
① 譲渡者(個人)の課税関係
イ 個人が法人に低額譲渡した場合
個人が法人に時価の2分の1未満の著しく低い価額で株式を譲渡した場合は、その時における価額(時価)により譲渡があったものとみなして所得税が課税される(所法59条①二・所令169条)。
即ち、上記1.①イのように、個人から個人への譲渡は、低額譲渡であっても現実に収入すべき売却代金をもとに譲渡所得を算定するが、個人から法人への譲渡の場合はこれとは異なり、時価により譲渡所得を計算することになる。
尚、個人から法人に時価より低い価額で譲渡した場合であっても、譲渡対価が時価の2分の1以上であれば実際の譲渡対価をもって譲渡所得を計算してよいことになる。しかし、個人が同族会社に株式を譲渡するような場合は、実例はあまり聞かないが、理論的にはたとえ2分の1以上の対価であっても、所謂「同族会社の行為又は計算の否認」(所法157条)の規定により、税務署長はその個人が行った行為又は計算にかかわらず、時価により個人の譲渡収入を計算することがある(基通59-3))。
ロ 個人が法人に贈与した場合
個人が法人に株式を贈与した場合も、上記イと同様に、その時における価額(時価)により譲渡があったものとみなして所得税が課税される(所法59条①一)。
個人から個人への贈与の場合は贈与税の課税はされるが、取得価額の引継ぎが行われるため贈与時点までのキャピタル・ゲインに対する課税は将来の売却時まで繰り延べられる。
しかし、個人から法人への贈与にあってはこれと異なり、その贈与の時に譲渡があったものとみなして、譲渡所得に対して所得税が課税される。
<その時における価額(時価)>
上記イ・ロの「その時における価額」とは、通常非上場株式の場合は、純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額であり、所得税基本通達59-6を前提として、財産評価基本通達178から189-7までにの例により算定した価額である。
② 譲受者(法人)の課税関係
法人が時価より低い価額で株式を取得した場合は、時価と取得価額との差額が受贈益となり、法人税が課税される。
無償で株式を譲り受けた(贈与を受けた)場合も、時価により算定された受贈益に対して法人税が課税されることになる(法法22条②)。
・ 時価1000の株式を400で取得した場合
有価証券 1000 / 現金預金 400
受贈益 600
・ 無償で株式を譲り受けた(贈与を受けた)場合
有価証券 1000 / 受贈益 1000
3.法人から個人への低額譲渡
① 譲渡者(法人)の課税関係
法人が個人に対して時価より低い価額で株式を譲渡したときは、譲渡者である法人において次の処理がなされる。
即ち、時価と取得価額との差額が有価証券売却益とされ法人税が課税される。また、時価と譲渡対価との差額は寄付金(譲渡を受ける個人がその法人の従業員等であるときは給与)とされ、寄付金の場合は損金算入につき限度額計算が行われる。
(取得価額 1000 譲渡対価 2000 譲渡時の時価 5000 とする)
現金預金 2000 / 有価証券 1000
寄付金等 3000 / 有価証券売却益 4000
<この場合の時価>
ここにいう時価は、発行法人の事業年度終了の日等における1株当りの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額(法基通9-1-13)であるが、実務的には3つの留保条件のもとに、財産評価基本通達により評価した価額である(法基通9-1-14)。
尚、この場合は、譲渡対価が時価の2分の1未満の著しく低い価額であると否とにかかわらず、時価より低い価額で譲渡がされる限り上記の処理が行われる。
② 譲受者(個人)の課税関係
個人が法人から株式を時価より低い価額で譲り受けたときは、時価と取得価額との差額については、譲受者である個人が得た経済的利益として所得税が課税される(所法36条・所基通36-15)。
上記①の例では、時価5000と譲渡対価2000との差額3000が、所得税の課税対象になる。
この場合、株式を譲り受けた個人が譲渡者である法人とどのような関係にあるかによって所得の区分が異なる。
・ 個人が法人の従業員である場合 → 給与所得
・ 個人が法人の役員である場合 → 給与所得(役員給与)
・ 上記以外の場合 → 一時所得 (所基本通34-1)
4.法人から法人への低額譲渡
① 譲渡者(法人)の課税関係
法人が法人に対して時価より低い価額で株式を譲渡したときの処理は、上記3.①(法人から個人への低額譲渡)の場合と同様である。
即ち、時価と取得価額との差額が有価証券売却益とされ法人税が課税される。また、時価と譲渡対価との差額は寄付金とされ損金算入につき限度額計算が行われる。
② 譲受者(法人)の課税関係
株式を時価より低い価額で譲り受けた法人においては、次の処理がなされる。
有価証券 5000 / 有価証券受贈益 3000
現金預金 2000 /
上記の記述は、2016年5月1日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2016.5.1改定 2015.10.31