製造業を営んでいる個人だが、このたび法人成りした。個人事業で使っていた機械と在庫を法人に引き継ぎたい。この場合、個人から法人へこれらの資産を譲渡することになるのか。またその場合いくらで譲渡すれば良いか。
個人から法人へ時価で譲渡する。時価以外で譲渡すると課税関係が生じることがある。
-概要-
個人の資産を法人へ引き継ぐ方法には、大きく、①現物出資による場合と、②譲渡による場合とがある。広い意味では個人の資産を法人に賃貸することも、資産の引継ぎの形態の一つと言えよう。
これらの方法うち、①現物出資は手続き的に多少煩雑であるから、法人成りの場合の資産の引継ぎは、多く会社設立後に個人資産を法人に②譲渡することにより行われる。
法人成りすると個人事業はその時点で廃業となるが、個人が有していた棚卸資産や減価償却資産を法人が引き継ぐと、個人から法人へこれらの資産が譲渡されたことになるため、個人において課税の問題が生じる。
-譲渡価額-
資産の引継ぎが、引継ぎの時における時価で行われれば、個人において時価と帳簿価額との差額が譲渡所得等として
課税される以外に特段の課税関係は生じない。
引継ぎ額が時価より高い場合(法人にとって不利))には、引継ぎ額と時価との差額が法人において個人に対する貸付金とされるか、場合によっては役員賞与と認定されることがある。
(法人の経理) 例:時価1000の資産を、1200で引き継いだ場合
資 産 1000 / 現 金 1200
貸付金 200
逆に、引継ぎ額が時価より低い場合(法人にとって有利)は、引継ぎ額と時価との差額が法人において受贈益とされて課税される。
(法人の経理) 例:時価1000の資産を、800で引き継いだ場合
資 産 1000 / 現 金 800
受贈益 200
ところで、ここに言う時価とは具体的には次のとおりである。
① 減価償却資産の時価
減価償却資産の時価の算定は、車両等のように容易に時価が査定できるもの以外は一般に困難である。個人事業では減価償却資産は原則として定額法により減価償却が行われるが、実務的には個人事業において適正に減価償却を行った後の帳簿価額をもって時価とする方法が一般的である。減価償却資産を法人に譲渡すると、個人において譲渡所得(総合課税)として課税される。
尚、個人が法人に時価の2分の1未満の価額で減価償却資産を譲渡すると、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得の課税が行われる(所法59①二)。
② 棚卸資産の時価
通常の販売価額が時価となる。著しく低い価額で個人から法人へ棚卸資産が引き継がれた場合は、その時の時価によって譲渡したものとされる(所法40①二)。ここに著しく低い価額とは、棚卸資産の概ね70%未満の価額をいう(所通40-3)。したがって、個人から法人へ棚卸資産を引き継ぐときは通常の販売価額の概ね70%相当額で引き継げば通常の販売価額で引継がれたことになる。棚卸資産を法人に引き継ぐと、個人において事業所得(又は雑所得)として課税される。
上記の記述は、2011年11月15日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2012.11.15