平成28年1月1日以後、法人が支払いを受ける預金の利子等から差引かれる住民税利子割が廃止されました。低金利のもとで預金利子自体が少ない上に、少額の利子割の計算に要する事務コストを考えると、とりあえず歓迎すべきことといえるでしょう。
1.利子割とは?なぜ廃止に?
利子割というのは、預金利子や公社債の利子等の支払いを受ける際に特別徴収(天引き)される5%の税金です。同じように利子等から天引きされる所得税や復興特別所得税は国税ですが、利子割は地方税で、銀行等が天引きして都道府県に納付します。
中小法人にとって、通常、預金利子は少額な場合が多いのですが、この預金利子から次の3つの税金が天引きされています。
● 源泉所得税 (国税)
● 復興特別所得税 (国税)
● 利子割 (地方税)
このように、少額の預金利子について、3つの税金を区別して経理することは、法人にとって大きな事務負担になっています。都道府県にしても同じことで、わずか1円の利子割の処理のために多額の事務コストを費やしているのが実情です。改正にはこのような背景があるものと思われます。
2.利子割の廃止で税率はどうなる?
利子割が適用される平成27年12月までと、廃止された平成28年1月以後とで、税率がどのように変わるかを所得税や復興特別所得税を含めて一覧で示すと次のようになります。
尚、利子割が廃止されるのは、法人が支払いを受ける利子等についてですから、個人が受ける利子等については従来どおり5%の利子割が課されます。
所得税・復興特別所得税・利子割の税率
種類・配当等の種 | 税 率 | 平成26年1月~平成27年12月 | 平成28年1月~平成49年12月 |
預金・公社債の 利子等 | 全体の税率 | 20.315% | 15.315% |
所得税 | 15% | 15% | |
復興特別所得税 | 0.315% | 0.315% | |
利子割 | 5% | 廃止 | |
上場株式の配当等 | 全体の税率 | 15.315% | 15.315% |
所得税 | 15% | 15% | |
復興特別所得税 | 0.315% | 0.315% | |
利子割 | ー | ー | |
非上場株・出資金の 配当等 | 全体の税率 | 20.420% | 20.420% |
所得税 | 20% | 20% | |
復興特別所得税 | 0.420% | 0.420% | |
利子割 | ー | ー |
2.平成27年12月までは利子割の計算が必要です
平成27年12月までに支払われる利子等については、従来と同じように利子割を計算する必要があります。
ところで、定期預金や公社債の利子は、銀行などが発行する計算書から所得税・復興特別所得税・利子割の額を知ることができます。ところが普通預金の利子などについては、利子の手取り額を割り返して所得税や利子割の額を求めるという簡便な方法をとるのが一般的です。
平成25年の復興特別所得税導入前までは、利子の手取り額を0.8で割り返して求めた額に0.15を乗じて所得税の額を計算し、また0.05を乗じて住民税の額を計算していました。
平成25年以後は復興特別所得税が導入されたため、割り返す数値が0.8→0.79685に変りました。
利子割廃止前 (平成25年から平成27年まで)
手取り額 500円
利子の総額 500円 ÷ 0.79685 = 627円 1円未満切捨て
所得税+復興特別所得税 627円 × 0.15315 = 96円 1円未満切捨て
復興特別所得税 96円 × 0.315 ÷ 15.315 = 2円 50銭以下切捨て、50銭超切り上げ
所得税(国 税) 96円 - 2円 = 94円
住民税(地方税) 627円 × 0.05 = 31円 円未満切捨て
● 上記の計算の結果として、利子の手取り額が130円以下の場合は、復興特別所得税は0円になります。
● 平成25年1月以降に支払いを受ける利子については、所得税と復興特別所得税とを期末に一括して按分
する方法も認められています。また、合理的な方法であれば、その他の方法で按分計算と端数処理を行って
もよいことになっています。
3.平成28年1月からは利子割の計算は必要ありません
平成28年1月以後支払われる利子等については、利子割の計算をする必要はありません。
それでも、復興特別所得税は平成49年まで続きますから、計算は多少シンプルにはなるものの、やはり複雑です。
平成28年1月以後支払われる利子等について、手取り額から割り返して所得税や復興特別所得税を求めるには、割り返す数値が 0.79685 → 0.84685 に変ります。
利子割廃止後 (平成28年から平成49年まで)
手取り額 500円
利子の総額 500円 ÷ 0.84685 = 590円 1円未満切捨て
所得税+復興特別所得税 590円 × 0.15315 = 90円 1円未満切捨て
復興特別所得税 90円 × 0.315 ÷ 15.315 = 2円 50銭以下切捨て、50銭超切り上げ
所得税(国 税) 90円 - 2円 = 88円
住民税(地方税) 廃止
● 上記の計算の結果として、利子の手取り額が138円以下の場合は、復興特別所得税は0円になります。
3.配当等については改正前と同じ計算方法です
株式や出資の配当等については、平成27年12月以前から利子割は課されていませんでした。したがって、改正により経理処理が変わることはありませんが、参考として計算方法を示しておきます。
① 法人が受け取る上場株式等の配当等の場合
復興特別所得税適用後 (平成26年から平成49年まで)
手取り額 500円
配当の総額 500円 ÷ 0.84685 = 590円 1円未満切捨て
所得税+復興特別所得税 590円 × 0.15315 = 90円 1円未満切捨て
復興特別所得税 90円 × 0.315 ÷ 15.315 = 2円 50銭以下切捨て、50銭超切り上げ
所得税(国 税) 90円 - 2円 = 88円
② 非上場株式・出資金の配当等の場合
復興特別所得税適用後 (平成25年から平成49年まで)
手取り額 500円
配当の総額 500円 ÷ 0.7958 = 628円 1円未満切捨て
所得税+復興特別所得税 628円 × 0.2042 = 128円 1円未満切捨て
復興特別所得税 128円 × 0.42 ÷ 20.42 = 3円 50銭以下切捨て、50銭超切り上げ
所得税(国 税) 128円 - 3円 = 125円
4.利子割が廃止されると税負担は減るのでしょうか?
確かに特別徴収される利子割がなくなる分だけ手取り額は増加します。
しかし、利子割は法人に課される住民税法人税割の前払いと位置付けられていますから、平成27年以前に特別徴収されていた利子割は、結局、住民税法人税割りから控除されていたのです。仮に、会社が赤字で住民税法人税割を納付する必要がないときは住民税均等割りから控除されますし、それでも控除しきれないときは会社に還付されます。
そうしますと、この度の改正で、利子割がなくなった分だけ利子等の手取り額は増えますが、反面確定申告のときに住民税から控除したり還付を受けたりする利子割もなくなる訳ですから、結果として会社は損も得もしないことになります。
2016.3.27