平成26年4月から消費税率が8%に引き上げられますが、消費税率の引き上げに伴って経理事務に混乱が予想されます。混乱が予想されそうなポイントをいくつか拾ってみました。3月・4月の消費税に関する経理事務にご活用ください。
1.家賃の消費税率についての特別な扱い
平成26年4月1日以後の事務所などの家賃については、原則として8%の税率が適用されます。しかし、4月1日以後の家賃であっても、平成25年9月30日以前に締結した賃貸借契約に基づいて支払われている家賃については、一定の要件を満たす場合は旧税率の5%が適用されます。具体的な要件については、下記の図を参照してください。
*賃貸借契約に、「消費税の改正があったときは改正後の税率による」という規定が置かれていることがありますが、この規定は上図①「事情の変更などで家賃の額の変更を求めることができる」に該当します。したがって、この規定があると他の要件を満たす限り新税率8%が適用されることになります。
*賃貸借契約の中には、解約の申出がないときは契約が自動継続されるという条項を織り込んでいるケースがありますが、この場合は、自動更新の時に新たな契約が締結されたと解釈して上図の判定を行います。したがって、この条項があって自動更新の時期が平成25年9月30日以前であれば、他の要件を満たす限り旧税率5%が適用されます。
2.家賃の新税率8%は何月分から適用するのでしょうか?
家賃は通常前払です。賃貸借契約書には、「翌月分の家賃を当月末日までに支払う」などと記載されているのが一般的です。たとえば4月分の家賃を3月31日までに支払う、という契約では、貸付という行為は4月に行われるわけですから、たとえその支払が3月中であっても新税率8%が適用されます。
仮に「3月分の家賃を4月30日までに支払う」という契約(後払い契約)があるとすると、貸付という行為そのものは3月に行われていますので、支払が4月であっても旧税率5%が適用されることになります。
3.平成26年4月1日以後支払われる電機、ガス、電話料金の税率は?
電気、ガス、水道、電話などの料金は、3月から4月にまたがって計算されることがありますが、これらの料金については、4月1日以後の期間に対応する料金であっても、平成26年4月30日までに検針などで料金が確定するものについては旧税率の5%が適用されます。実務的には、4月30日までに引き落とされたこれらの料金について5%の税率を適用することになると思われます。
4.平成26年4月1日以後と前とにまたがる期間の通勤定期券を支給する場合の税率は?
通勤定期券等を平成26年3月31日までに購入する場合は、乗車期間が4月1日以後の期間を含んでいても旧税率の5%が適用されます。つまり、通勤定期券を購入した日が施行日(平成26年4月1日)以後かどうかによって判定することになります。この扱いは、通勤定期だけでなく出張旅費などについても同じです。
ところで、会社が直接通勤定期券を購入して社員に渡す場合は比較的簡単に判定できますが、通勤定期券代を給与といっしょに支給する場合は少し面倒です。この場合は、従業員等が通勤定期をいつ購入するかによって判定します。従業員等が3月中に通勤定期券を購入すれば旧税率5%ですし、4月以後に購入すれば新税率8%が適用されます。
たとえば、2月25に支給する給与といっしょに、4月から9月までの乗車期間の通勤定期代を支給したとすると、従業員等が3月に定期券を購入することが予定されていますから旧税率5%が適用されます。
また、3月25日に通勤定期代を支給する場合は、通常従業員等は4月に通勤定期を購入しますから新税率8%が適用されることになります。
5.コピー機のメンテナンス料を1年分前払いした場合の税率は?
平成26年3月31日以前にコピー機などのメンテナンス料を1年分前払いすることがあります。この場合、いつの時点で消費税を捉えればよいかということが問題になります。平成26年3月31日以前の取引と考えれば旧税率5%が適用されますし、メンテナンスが終わる平成26年4月1日以後の取引と考えれば新税率8%が適用されることになります。
消費税の考え方では、消費税が課税される時期は、物の引渡しを要するものについては目的物の全部を完成して引き渡した日、物の引渡しを要しないもの(サービス)についてはその全てを完了した日とされています。
コピー機のメンテナンスは物の引渡しを要しないサービスですから、原則として、サービスが完了する日が平成26年4月1日以後か前かによって判定します。したがって、メンテナンス料が平成26年3月31日までに支払われても、サービス完了の日が平成27年3月であれば新税率8%が適用されることになります。
この場合、メンテナンス料を平成26年4月1日以後と前とに按分して、それぞれに新・旧税率を適用することはできません。
(平成26年1月31日に、平成26年月2月から平成27年1月までメンテナンス料を前払した場合)
支払時 H.26.1.31 前払費用 100,000 / 現預金 100,000
役務完了時 H.27.1.31 手数料(消費税率8%) 100,000 / 前払費用 100,000
しかし、契約や慣行によって、毎年継続して1年分のメンテナンス料を費用に計上している場合で、平成26年3月31日までに支払ったメンテナンス料を費用に計上したときは、旧税率5%を適用してもよいことになっています。
6.短期前払家賃を1年分損金の額に算入した場合の税率は?
家賃を1年分前払いした場合、一定の要件を満たせば、これを前払費用としないで支払った事業年度に全額を損金の額に算入することが認められています。この規定は、本来事務処理を簡略化するために設けられたものですが、実際には節税を目的として使われることが多いようです。
ところで、事務所や工場などの家賃を1年分まとめて支払う場合、家賃の計算期間が平成26年4月1日以後と前とにまたがっていることがあります。このような場合、消費税の計算はどうすれば良いのでしょうか。
基本的な考え方としては、消費税も法人税と同じ扱いで、家賃を1年分支払った課税期間(通常は事業年度)に、消費税の仕入税額控除(消費税の申告書で支払った消費税を差引くこと)を行います。
しかし、今回のように消費税の税率が変る場合は例外的な処理が必要になります。平成26年3月31日以前に支払われた前払家賃のうちに平成26年4月1日以後の期間に対応する家賃が含まれていて、その家賃が新税率で計算されているときは、新税率による消費税を当課税期間では仕入税額控除しないで、翌課税期間へ繰り越して仕入税額控除を行います。
具体的には次のような経理処理になります。
(3月決算法人が、平成26年1月に、平成26年1月から平成27年12月までの家賃を支払った場合)
平成26年3月期 H.26.1.31 家賃(1~3月分) 300,000 / 現預金 1,287,000
仮払消費税(5%) 15,000 /
家賃(4~12月分)900,000 /
仮払金(8%) 72,000 ← 翌課税期間で仕入税額控除する
平成27年3月期 H.27.12.31 仮払消費税 72,000 / 仮払金 72,000
7.平成26年3月31日以前に契約して、4月1日以後納品した場合の税率は?
消費税が課税される時期は物が引き渡された日です。したがって、例えば、平成26年3月31日以前に機械を購入する契約をして、平成26年4月1日以後に機械の引き渡しを受けたときは、新税率8%が適用されます。
仮に、旧税率で請求されて請求どおりの代金を支払った場合でも、消費税の計算は新税率で行わなければなりません。サービスの提供を受ける場合も基本的には同じ考え方です。
平成26年4月1日以後引渡しを受けた機械の代金が1,050,000円(内、消費税50,000円)としますと、消費税の申告をする場合の計算の、仕入税額控除の計算の仕方は次のとおりです。
1,050,000 × |
|
× 8% |
= 77,777 |
8.平成26年3月31日以前に仕入れた商品を、4月1日以後販売した場合の税率は?
平成26年3月31以前に仕入れた商品については、5%の旧税率で仕入税額控除が行われます。それではこの商品を平成26年4月1日以後販売した場合はどうなるのでしょうか。
たとえ平成26年3月31日以前に仕入れた商品であっても、平成26年4月1日以後販売(引渡し)がされるものは、新税率8%が適用されます。
9.「消費税は5%のまま据え置きます」とした場合の消費税の税率は?
平成26年4月1日以後の取引については、本来は新税率8%を適用しますが、価格を上げることによる客離れを防ぐため、旧税率のまま据え置くことがあるかも知れません。
この場合であっても、物の引渡しやサービスが完了する日が平成26年4月1日以後であれば、実際の請求にかかわらず新税率8%が適用されます。この場合の消費税の計算の仕方は、7.の場合と同じです。
少し考えただけでも、消費税の税率変更によっていろいろな疑問が起きてきます。多くの会社では、3月から4月は繁忙期に当たります。この時期の経理処理を無駄な時間をかけずにスムーズに乗り切っていきましょう。
2014.1.21