株式(非上場)を株式の発行会社に譲渡したいが、譲渡した場合の所得税の課税関係はどうなるのか教えてほしい。
株式を譲渡した場合は、譲渡益に対して所得税が課税(譲渡所得)されるが、加えてみなし配当に対して課税(配当所得)される場合がある。譲渡所得には20.315%の所得税・住民税等が課税され、配当所得は総合課税の対象となり、最高税率が適用される場合は55.945%の税率で課税される。
1 はじめに
株主が非上場株式を株式の発行会社に譲渡(発行会社からみれば自己株式の取得)する場合がある。例えば相続により自社株を取得した相続人が相続税の納税資金を捻出するためにその株式を発行会社に譲渡したり、株式を有している役員が退職に際して株式を発行会社に買い取ってもらう場合などがある。
この場合は、譲渡所得が発生するとともに、一定の条件に該当する場合にはみなし配当が発生し配当所得に対する課税が行われる(所法25①五)。
・譲渡所得には、分離課税で20.315%の税率で所得税・住民税等が課税される。
・みなし配当は総合課税の対象となり、最高税率が適用される場合は55.945%(所得税・住民税等合計)の税率で課税される。
2 株式の取得費が資本金等の額より小さい場合(一般的な場合)
みなし配当と譲渡所得の具体的な計算方法は次のとおり。
(前提) 取得費50万円<資本金等の額180万円
譲渡対価 200万円
取得費 50万円
資本金等の額 180万円
① みなし配当の計算
みなし配当は、譲渡対価のうち資本金等の額を超える部分の金額である。
即ち 200万円-180万円=20万円 ← みなし配当
② 譲渡所得の計算
譲渡所得は、資本等の額から取得費を控除した金額である。
即ち 180万円-50万円=130万円 ← 譲渡所得
* 取得費が資本金等の額と同額である場合も多いが、この場合は上記の譲渡所得は0円となるため譲渡所得に対する課税は発生しない。
3 株式の取得費が資本金等の額より大きい場合
取得費が資本金等の額より大きい場合は次のとおり譲渡損失が発生するが、この場合でも譲渡対価が資本金等の額を超える限りみなし配当が発生する。
(前提) 取得費190万円>資本金等の額180万円
譲渡対価 200万円
取得費 190万円
資本金等の額 180万円
① みなし配当の計算
みなし配当は、譲渡対価のうち資本金等の額を超える部分の金額である。
即ち 200万円-180万円=20万円 ← みなし配当(上記2①と同じ)
② 譲渡損失の計算
譲渡所得(損失)は、資本等の額から取得費を控除した金額である。
即ち 180万円-190万円=△10万円 ← 譲渡損失
4 時価より著しく低い価額で譲渡した場合(応用編)
個人株主が、株式を発行会社へ時価より著しく低い価額で譲渡した場合は、時価に相当する金額で譲渡があったものとみなす(所法59条①二)が、この場合の課税関係は次のとおりである。
(前提) 取得費50万円<資本金等の額180万円<譲渡対価200万円<時価500万円
時価 500万円
譲渡対価 200万円
取得費 50万円
資本金等の額 180万円
① みなし配当の計算
みなし配当は、譲渡対価のうち資本金等の額を超える部分の金額である。
即ち 200万円-180万円=20万円 ← みなし配当(上記2①と同じ)
② 譲渡所得の計算
譲渡所得は、次のイとロの金額の合計額である。
イ 資本等の額から取得費を控除した金額
180万円-50万円=130万円 ← 譲渡所得(上記2②と同じ)
ロ 時価と譲渡価額との差額
500万円(時価)-200万円(実際の譲渡価額)=300万円
イ+ロ=430万円 ← 譲渡所得
<わかり易い譲渡所得の計算方法>
時価より著しく低い価額で譲渡した場合の譲渡所得の額は、まず発行法人へ譲渡した株式の時価からみなし配当
の額を控除して譲渡収入の額を求め、この譲渡収入から取得費を控除して計算すると分かり易い。
みなし配当の額 20万円
譲渡収入の額 500万円(時価)-20万円(みなし配当)=480万円(譲渡収入)
譲渡所得の額 480万円(譲渡収入)-50万円(取得費)=430万円(譲渡所得)
5 相続により取得した株式を発行会社に譲渡した場合の特例
相続税の納税資金を捻出するために非上場株式を発行会社に譲渡した場合に、上記のみなし配当の規定をそのまま適用すると納税資金が手許に残らず納税に支障をきたすなどの問題が生じることがある。
このため、相続した株式を発行法人に譲渡したときは、みなし配当の規定を適用しない特例が設けられている(措法9の7①)。
<注意点>
特例の適用を受けるためには、次の点に注意する必要がある。
① 非上場株式を相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社に譲渡すること。
② そもそも相続税が発生しない場合はこの特例の対象にならない。たとえば、配偶者の税額軽減措置により相続税が0円になるような場合には特例の適用はない。
③ この特例は相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39①)と併せて適用できる。
④ この特例を受けるためには、非上場株式を譲渡した者は、譲渡する時までに、一定の書類を発行会社を経由して発行会社の本店所在地の所轄税務署に提出しなければならない。
6 総括
非上場株式を株式の発行法人に譲渡する場合、譲渡所得は認識していてもみなし配当を見落とすことがある。特に歴史の古い会社の場合、資本金等の額は少額であっても、その後の業績が良好であったため譲渡対価が高額になることがある。
このような場合にはみなし配当の額も高額になるため、みなし配当の申告を失念したり、みなし配当の額を譲渡所得の額にに含めて申告したりすると多額の申告洩れ等が発生しかねない。十分な注意が必要になる。
上記の記述は、2024年8月31日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。