· 

No.58 死亡前7年間に贈与を受けた財産は相続税の課税対象に!65年ぶりの大改正

 令和5年度の税制改正で、贈与税の仕組みが大きく変わります。

■暦年課税の改正

年間で110万円までの贈与を非課税とする制度は存続しますが、相続財産に持ち戻す贈与財産は、改正前は相続開始前3年間に贈与した財産でよかったのですが、改正で持ち戻しが必要な期間が7年間に延長されました。

■相続時精算課税の改正

相続時精算課税制度について、年間で110万円の新たな非課税枠が設けられ、年間110万円までなら贈与税はかからず、相続財産への持ち戻しも必要がないこととされました。

改正の内容は次のとおりです

1 暦年課税

① 相続開始の7年間に贈与を受けた財産を相続財産に加算することになりました(改正前は、加算するのは相続開始の前3年間に贈与を受けた財産だけでした)。

② 延長した4年間(相続開始の前4年〜7年)に贈与を受けた財産の合計額から100万円を控除できることになりました。

③ この改正は、令和6年1月1日以後贈与を受けた財産について、相続税の申告の際に適用されます。

2相続時精算課税

 年額110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、相続税の申告の際相続財産に加算する必要もなくなりました。

 したがって、相続時精算課税を選択すれば、毎年110万円以下の贈与である限り、贈与税も相続税も完全にかからないことになります。

 *混乱しそうですが、この110万円の控除は相続時精算課税を選択した場合の控除額ですから、同じ110万円でも現行の暦年課税の控除額とは別のものと考える必要があります。

② 相続時精算課税は、将来相続税の申告をする際、贈与時の価額にもとづいて相続税の申告をすることが原則ですが、贈与を受けた土地又は建物が災害により一定の被害を受けたときは、災害を受けた部分を控除して相続税の申告をすることができることになりました。

③ この改正は、令和6年1月1日以後贈与を受けた財産、または災害により被害を受けた場合に適用されます。

 暦年課税と相続時精算課税は、贈与者ごとにどちらかを選択しなければなりません。改正後の両方の制度を比較して、それぞれのポイントを見ていきましょう。

 贈与者ごとに選択 
 

相続 相続時時精算課税

  暦年課税  
 

ポイント

 

★相続時精算課税を選択する限り、年額110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、相続財産への加算も不要です。つまり、全く無税で毎年110万円まで財産を贈与することができます。

 

★年額110万円の控除を受けても、現行の相続時精算課税の特別控除2,500万円は影響を受けず、控除を受けた100万円分だけ特別控除額が減らされることもありません。

 

★現行では、相続税の計算をする際、贈与を受けた財産を贈与時の価額で相続財産に加算しますが、改正後は贈与を受けた土地又は建物が災害により一定の被害を受けたときは、災害を受けた部分を控除して相続税の申告をすることができます。

 

(適用時期)

  令和6年1月1日以後贈与を受けた財産について、又は、令和6年1月1日以後災害により被害を受けた場合に適用されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

<相続時精算課税のイメージ>

 

 

● 第1回目贈与の年

 890万<2,500万

 → 贈与税なし

 

● 第2回目贈与の年

 890+1,090=1,980万<2,500万

 → 贈与税なし

 

● 第3回目贈与の年

 890+1,090+990=2,970万>2,500万

 → 贈与税あり                        (特別控除)

 

 2,970万-2,500万=470万  ⇚ 贈与税がかかる

 

ポイント 

 

★相続開始の前7年間に贈与を受けた財産を相続財産に加算します。

 

★改正前は、相続開始の前3年間に贈与を財受けた財産を相続財産に加算することとされていました。

 

 改正で相続財産に加算されるのは、令和6年1月以後贈与された財産とされましたから、結果としてこの改正の影響を受けるのは、4年目の令和9年1月以後開始した相続からになります。

(令和8年12月までに開始した相続は改正の影響を受けません。)

 

★加算期間は、令和9年から令和12年までの期間に段階的に延長されて、最終的に令和13年1月以後開始した相続から7年になります。

 

★延長した4年間(相続開始の前4年〜7年)に贈与を受けた財産の合計額から100万円を控除できます。4年間の贈与財産の合計に対して100万円の控除で、各年100万(合計400万)ではないから注意が必要です。

 

(適用時期)

令和6年1月1日以後贈与を受けた財産について、相続税の申告の際に適用されます。

 

 

<暦年課税のイメージ>

 

 

 

 

● 死亡前3年間の加算額

 500+300+500=1,300万

 

● 死亡前4~7年間の加算額

(500+600+700+600)-100=2,300万

 

1,300+2,300=3,600万 ⇚相続財産に加算する

 

まとめ

 

改正の目的は?

 今回の改正は、世代間の資産移転を促進するための政策的なもので、暦年課税による贈与を税務上利用しにくいものとする反面、これまであまり利用されてこなかった相続時精算課税制度を、納税者にとってメリットの多い制度に作り替えることにより、一層の普及を図る内容になっています。

 

年額110万円の暦年贈与はなくなるの?

 年額110万円以下の贈与を無税とする現行の暦年課税自体は改正後も残りますが、死亡前の7年間に贈与した財産を相続財産に加算することになると、生前贈与に二の足を踏むケースも多くなるでしょう。

 

相続時精算課税はどんな点がいいの?

 一方で、相続時精算課税を選択すれば、贈与財産のうち年額110万円までは贈与税がかからないばかりか、相続財産に加算する必要もない(暦年課税では、110万円以下の贈与財産であっても相続財産に加算します)ということになりますと、相続時精算課税を選択することによるメリットは相当大きいといえます。

 今後相続時精算課税を選択する納税者が増加することは容易に予想できます。

 

相続時精算課税の問題点は?

 但し、相続時精算課税は一度選択すると、同一の贈与者については暦年課税に戻ることができないことは現行制度と変わりませんし、相続時精算課税は贈与時には仮に無税であったとしても、相続時に清算されるものであること、即ち本質的に納税を相続時に先送りする制度である点を考慮し、慎重な判断が必要になると思われます。