デベロッパーから、「住んでいる土地を売ってもらいたい、その土地にマンションを建てるから、土地を手放す代わりに、新築マンションの一室を所有して住んではどうか」という申し出を受けた。デベロッパーは「等価交換」だから税金はかからないというが、本当か。
「等価交換」という触れ込みであっても、譲渡価額などの条件により一定の税金がかかることがある。また、「税金がかからない」場合であっても税金を免除されるのではなく、課税を将来に繰り延べるに過ぎない。
1.等価交換方式とは
等価交換方式にはいくつかの類型があるが、一般には、比較的大規模な土地を有する地権者が、土地をデベロッパー(開発業者)に譲渡し、デベロッパーがその土地にマンションなど大規模な建物を建設する。地権者は、譲渡した土地の価額に見合う新築建物の区分所有権と、土地の一部をデベロッパーとの共有持ち分として取得する。この方式によれば、地権者は、土地の所有権を手放す見返りとして、自己資金を持ち出したりローンを組むなどせずに新築建物とその敷地権を入手することができる。
しかし、新築建物の価額にはデベロッパーの利益が上乗せされるはずであるから、地権者からみると、土地と建物を合わせた価額を強引に「等価」とするために、デベロッパーが土地の価額を作為的に圧縮しているのではないかという疑念が生じることがある。
1憶円の土地を有している地権者が、 同額のマンション(6千万円の建物と4千万円の敷地権)を 等価交換により取得するイメージ |
2.課税の繰延措置の概要(措法37条の5①二)
土地と新築マンションとを交換した場合は、原則として所得税が課税される。土地を一旦譲渡(売却)して、その売価資金で新築マンションを取得したと考え、譲渡の際に生じた譲渡所得に対して課税するのである。
この原則に対して、ここでいう等価交換による課税の繰延べ措置は、「立体交換」の特例とも言われ、主に三大都市圏で、大規模マンションの建築等をするような場合に、当面所得税を課税せず、課税を将来に繰り延べるものである。
交換の場合の譲渡資産は、居住用・事業用を問わずこの制度の対象となり、遊休地にも適用がある。
また、事業用資産の買い換えの特例ように、譲渡益の80%部分の課税を繰り延べるというような制限はなく、100%課税の繰延べが可能である。
このように、地権者にとって有利な制度であるが、本質的に課税の免除ではなく、課税の繰延べに過ぎないため、当人に税負担がなくても子孫が税負担を負うことがある。
このため、制度の適用に際しては、他の制度との比較は当然であるが、デベロッパーからの申し出を謝絶することも含めて総合的に判断する必要がある。
3.適用要件
土地を譲渡すると、一般に譲渡所得(土地を売った金額からその土地を買ったときの金額を差し引いた額)に対して、長期譲渡であれば原則20.315%の所得税等が課税される。
しかし、従来所有していた土地を譲渡すると同時に同じ価値の物件を購入する(交換する)場合は、次の要件を満たせば課税を将来に繰り延べることができる。
<適用要件>
譲渡する資産の要件
①三大都市圏の既成市街地等びその周辺における一定の区域内等にある土地等、建物又は構築物であること。これらを譲渡前に何の用途に供していたかは問わない。
②5年以下の短期譲渡であっても対象になる。但し、棚卸資産は対象にならない。
取得する資産の要件
次の全ての要件を満たすこと
①原則として譲渡した年の12月31日までに取得すること。
②取得した日から1年以内に住宅や貸家の用に供すること。
③地上3階以上の中高層の耐火共同住宅であること。
④床面積の2分の1以上が専ら居住の用に供されるものであること。
4.資産の取得が翌年以後になる場合
上記のように、この特例の適用を受けるためには、譲渡資産を譲渡した年の内に買換資産を取得して、取得の日から1年以内に住宅や貸家の用に供する必要がある。
しかし、通常マンションなどの建築には長期間を要するため、譲渡した年の内に買換資産を取得できなくても、次のA・Bの要件を満たせば、譲渡した年の翌年から最長で3年以内に買換資産を取得すれば特例の適用を受けることができる(取得期限の延長)。
但し、この特例は、「特定の事業用資産の買換えの特例」とは異なり、譲渡した年の前年以前に先行して買換資産を取得した場合は適用されない。
尚、譲渡に先行して買換資産を取得した場合であっても、譲渡した年中に取得したのであれば特例の適用を受けることができる。
A 譲渡した年の翌年中に買換資産を取得する場合
①譲渡した年の翌年中に買換資産を取得する見込みであること。
②その取得の日から1年以内に住宅や貸家の用に供する見込みであること。
B 譲渡した年の翌年から3年以内に取得する場合
①建築期間が長期に及ぶなど、1年以内に買換資産を取得することが困難な事情があること。
②譲渡した年の翌年から3年以内に買換資産を取得すること。
③税務署長の承認を受けること。
<申請手続>
税務署長の承認を受けるためには、次の書類を譲渡資産を譲渡した年分の確定申告書に添付して提出する。
(上記申請書の書き方)
*「上段」
➡ 租税特別措置法 第37条 5第 1項 と記入する。
*「2 代わりに買い換える(取得する)予定の資産の明細」の「取得資産の該当条項」
➡ (2)第37条の5第1項の表 と 第2号(中高層の耐火共同住宅)を ○で囲う。
*認定を受けようとする年月日
➡ 明確でない場合は、譲渡した年の翌年から3年以内の最終日(即ち譲渡した年から数えて4年目の年の12
月31日)とする。取得期限の延長の承認を受けた後に、再度延長の申請をすることはできないから注意。
このように譲渡した年の翌年以後に買換資産を取得する場合は、譲渡した年分の確定申告では、取得価額の見積額に基づいて、下記5の計算方法により譲渡所得を計算することになる。
<承認>
申請が承認されたときは、税務署から次の書類が送付される。
やむを得ない事情がある場合の買換資産の取得期限承認申請に対する承認(却下)書
5.具体的な譲渡所得と税額の計算方法
①譲渡収入が取得価額以下である場合(譲渡価額≦取得価額)
例えば土地を8000万円で売って、1億円の新築マンションを取得した場合。
👉 譲渡はなかったものとみなされるから、課税されない。
②譲渡収入が取得価額を超える場合(譲渡価額>取得価額)
例えば土地を1億円で売って、8000万円の新築マンションを取得した場合。
👉 簡単に言えば、譲渡による収入(1憶円)が取得価額(8000万円)を超える部分(2000万
円)が課税の対象になる。
詳細は次のとおりである。
B=取得価額(新築マンションを買った金額)
C=譲渡資産の取得費(売った土地を当初買った金額)
D=譲渡費用(土地を売るためにかかった費用)
課税される譲渡所得 | = (A-B) - (C+D) × | A-B |
━━━━━ | ||
A |
* 譲渡費用とは、譲渡するために支払った費用で、仲介手数料や契約書に貼付する印紙代等が主なものであるが、質問のようなデベロッパーへの売却の場合は通常仲介手数料は発生しない。
所得税と住民税等の額 = 課税される譲渡所得 × 20.315%
6.将来マンションを売ったときの取得価額
この制度は課税の繰延べの特例であるが、具体的には、将来この新築マンションを売却したときに、新築マンションの実際の取得価額に代えて、等価交換をした際に譲渡した旧物件の取得価額を基にして譲渡所得を計算することで、等価交換で繰延べられた税金が取り戻されるのである。
新築マンションを譲渡した場合の譲渡所得の計算に用いる取得価額の計算は次のとおり。建物の減価償却費も下記の取得価額により計算する。
イ=譲渡資産の取得費(旧物件を取得したときの取得費)
ロ=譲渡費用(旧物件を譲渡したときの譲渡費用)
ハ=買換資産の実際の取得価額(新物件を取得したときの取得価額)
ニ=譲渡資産の収入金額(旧物件を譲渡したことによる収入金額)
①譲渡収入が買換資産の取得価額と同額である場合(譲渡収入=買換資産の取得価額)
👉 イ+ロ
②譲渡収入の一部で買換資産を取得した場合(譲渡収入>買換資産の取得価額)
例えば土地を1憶円で売って、8000万円の新築マンションを取得した場合
ハ
👉(イ+ロ)× ━━━
ニ
③買換資産の取得価額が譲渡収入を超える場合(譲渡収入<買換資産の取得価額)
例えば土地を8000万円で売って、1憶円の新築マンションを取得した場合
👉(イ+ロ)+(ハ-ニ)
7.総括
この特例は、大都市における住宅需要に対応するために、住宅地の高度化・立体化を促進しようとする政策に基づくものである。それだけに幅広い優遇措置が設けられており、地権者にとって有利で使い勝手の良い制度内容となっている。
しかし、土地に執着が強い地権者にとっては、先祖から引き継いだ土地を手放すことに対する抵抗感があることは否めない。又、有利な制度であるとはいっても課税の繰延措置に過ぎず、減免措置ではないことから、将来、世代を越えて子孫が税負担を被る可能性も考慮しなければならない。
したがって、等価交換を行うとしても、この特例に拘泥せず、例えばより一般的な制度である「居住用財産を譲渡した場合の特別控除(3000万円特別控除)」を適用する方が、仮に納税額が多くても、総合的に判断すれば賢明な選択となる場合もある。
上記の記述は、2021年10月1日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2021.10.1