平成30年度の税制改正で、所得拡大促進税制はそれまでに比べて利用しやすいものになりましたが、令和3年度の改正では適用要件が簡略化され、一層利便性の高い制度となりました。特に「継続雇用者」を考慮しないで税額控除限度額を計算できることの実務的なメリットは大きといえます。
この改正は、令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する事業年度に適用されます。
はじめに
令和3年度税制改正で所得拡大促進税制の見直しが行われましたが、このうち、中小企業者等が給与の引き上げを行った場合の給与等の税額控除についての改正をご紹介します。
創設当初は適用要件の判定が複雑で、経営者の給与増額に対するモチベーションを高めるより、経理事務の負担増加を生むばかりであったこの制度も、改正により多少は現実に即した制度に近づいてきたように感じられます。
改正の内容は?
1 継続雇用者から国内雇用者へ (適用要件の改正)
改正前は、継続雇用者の給与等の額が、前期に比べて1.5%以上増加した場合に、税額控除の適用を受けることができました。継続雇用者とは、当期と前期の全期間(通常は24月間)を通じて給与等の支払いを受けている雇用者をいいます。
改正後は、上記の継続雇用者が国内雇用者に変わります。つまり、当期と前期を通じて給与等の支払いを受けていなくても、国内で勤務する雇用者に対する給与が全て対象になります。改正後も「1.5%以上」の要件は変わりません。
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(改正後の適用要件) 雇用者給与等支給額の増加割合が、前期比1.5%以上であること。 |
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(算 式) イ) 雇用者給与等支給額-ロ)比較雇用者給与等支給額 ロ)比較雇用者給与等支給額 |
≧ 1.5% |
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<用語の意味>
イ)雇用者給与等支給額(改正前は、継続雇用者給与等支給額)
当期の損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額のことです。
ロ)比較雇用者給与等支給額(改正前は、継続雇用者比較給与等支給額)
前期の損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額のことです。
改正前は、まず当期と前期の給与台帳から継続雇用者を拾い出し、それぞれの継続雇用者に対する給与等の支給額を集計した上で2期比較をするという煩雑な作業が必要でした。
改正後は損益計算書の給与額を単純に比較すればよいことになり、実務的なメリットは大きいと思われます。
2 上乗せ措置の適用要件
控除税額は給与等支給増加額の原則15%ですが、次の「上乗せ措置を受けるためにの要件」の①と②の両方の要件を満たせば、10%上乗せして25%となります。
即ち、給与等支給増加額(前期より増加した給与等支給額)×25%
このように、改正前と改正後では、税額控除の率(15%)や、上乗せ税率(25%)は改正前と同じですが、改正後は上乗せ措置の適用要件の判定をする際、上記1と同じように、継続雇用者が国内雇用者に変わります。
改正後の適用要件は次のとおりです。
上乗せ措置を受けるための要件(中小企業者向け) | |||||||||
① 雇用者給与等支給額の増加割合が2.5%以上
≧ 2.5% |
② 次のa・bのいずれかの要件をを満たすこと。 ィ 当期の教育訓練費の額が、前期の教育訓練費の額に対して10%以上増加していること。 ロ 中小企業経営強化法に基づく経営力強化計画の認定を受けており、経営力向上が実際になされて いることが証明 されたものであること。 |
3 雇用調整助成金等の扱い
① 適用要件を判定する場合、助成金を控除しないで判定することになりました
上記1(適用要件の改正)では、給与等の支給額がポイントになりますが、ここでコロナ関連の雇用調整助成金等の支給を受けた場合、給与等の支給額をどのように扱うかが問題になります。改正前は、この助成金等の扱いが必ずしも明確ではありませんでした。
改正後は、上記1の適用要件の判定において、給与等の支給額から雇用調整助成金等を控除しないで計算することとされました。
② 給与等支給増加額を計算する上で助成金の扱いが明確になりました
税額控除額は、給与等支給増加額の原則15%ですが、この給与等支給増加額を計算する際、雇用調整助成金等を控除しないで計算した増加額と、控除して計算した増加額とのうち、少ない方の金額を税額控除額とすることとされました。
つまり、次のA、Bのうちいずれか少ない額が給与等支給増加額になります。
A 当期の給与等支給額-前期の給与等支給額
B(当期の給与等支給額-当期の助成金等の額)-(前期の給与等支給額-前期の助成金等の額)
2021.8.9