保険で節税はできない!2019年7月8日以降の新規契約は要注意。

 保険関係の通達改正により、保険による節税対策が大きな節目を迎えることになりました。改正後は、これまで本来の目的を逸脱した保険の運用により行われてきた課税の繰り延べ(節税)が大きく制約を受けることになります。今後は、会社とって「企業防衛」という保険本来の目的に立ち返ったた保険の運用が期待されます。

 改正は、2019年7月8日以後新たに契約する法人契約の定期保険について適用されます(一部の保険契約については2019年10月8日以後)。

 どのような改正なのですか?

 会社が支払う保険料は大きく分けて資産に計上するものと損金になるものとに分かれます。会社としては保険料の全額を損金にして節税を図りたいところですが、国はこれに歯止めをかけて一定ののルールを設けています。

 これまでも、保険会社はあの手この手でできるだけ多くの保険料が損金になるような保険商品を開発してきましたが、その都度国は通達を改正して節税策を封じ込めてきました。つまり、保険会社と国とのイタチごっこが、保険関係通達改正の歴史だったわけです。

 ところで、今回の改正の内容は大きく見て次のように要約されます。

 

1.改正のターゲットは、前払保険料が大きいタイプの保険契約です。このタイプの保険は、保険契約期間の前半に、後半で支払うべき

 保険料を含めて多めの保険料を支払っておいて、それが解約時に戻ってくるしくみです。前半に支払った保険料を前払費用としない

 でどれだけ損金にできるかが節税のポイントですが、改正ではこの「損金にできる」ことについてこれまでのルールを変更していま

 す。

  改正の対象となる保険は、前払保険料が多いため解約返戻金が多額になる定期保険と第三分野保険(注)です。 

 (注)第三分野保険とは、第一分野(生命保険の分野)と第二分野(損害保険の分野)のいずれにも属さない保険で、具体的には、医療保険や

  疾病保険、介護保険などが該当します。

2.これまでは、保険料のうち資産計上するものと損金になるものとは、保険期間と被保険者の年齢とによって決まっていました。

 ところが、改正後は、主に解約返戻金の返戻率が一番高い時の返戻率(「ピーク時の返戻率」と言います)によって決まります。

3.これまでは、資産計上された部分は、資産計上が必要な保険期間が過ぎるとすぐに取崩すことになっていましたが、改正後は資産計

 上が必要な期間が終わっても一定期間は取崩しをしないでおくこととされましたから、実務的には保険期間の管理がこれまで以上に

 必要になってきます。

 改正後の保険料の経理処理はどうするのですか?

 それでは、改正後の経理処理はどうなるのでしょうか。

 まず、解約返戻金がない保険契約については、保険料は全額損金に算入されます。問題になるのは、解約返戻金がある保険契約です。以下、解約返戻金がある保険契約について経理処理の方法を見ていきましょう。

 経理処理の方法は、保険契約のタイプによって次の4つに分かれます。

 

Aタイプ (ピーク時の返戻率が50%以下の保険契約)

  保険料の全額が損金に算入できます。

 

Bタイプピーク時の返戻率が50%超70%以下の保険契約)

 ① 保険期間の始めから4割の期間  支払保険料の60%が損金になります(40%は資産計上が必要です)。

 ② 保険期間の中間の3.5割の期間   支払保険料の全額が損金になります。

 ③ 保険期間の最後の2.5割の期間   支払保険料の全額が損金になります。同時に、①で資産計上した金額を取崩します。

  * Bタイプの保険のうち、年平均保険料が30万円以下の保険契約であれば、①~③にかかわらず全額損金になります。

  (参考)年平均保険料=保険期間中に支払う保険料の総額÷保険期間の年数

 

Cタイプ (ピーク時の返戻率が70%超85%以下の保険契約)

 ① 保険期間の始めから4割の期間  支払保険料の40%が損金になります(60%は資産計上が必要です)。 

   ② 保険期間の中間の3.5割の期間   支払保険料の全額が損金になります。

 ③ 保険期間の最後の2.5割の期間   支払保険料の全額が損金になります。同時に、①で資産計上した金額を取り崩します。

 

Dタイプ (ピーク時の返戻率が85%超の保険契約)

 ① 返戻率がピークになる時期まで

      保険期間の始めから10年間   ➡ <支払保険料 × ピーク時の返戻率 × 90%>が資産計上です。

      保険期間の始めから11年目以後返戻率がピークになる時期(注)まで

                      ➡ <支払保険料 × ピーク時の返戻率 × 70%>が資産計上です。

   ② 返戻率がピークになる時期から、払戻金額がピークになる時期

                                                  支払保険料の全額が損金になります。

 ③ 払戻金額がピークになる時期から契約期間終了時まで

                                                   ➡ 支払保険料の全額が損金になります。同時に、①で資産計上した金額を取り崩します。

     

 (注) 「返戻率がピークになる時期」は、「年間の解約払戻金の増加額が、年換算保険料に対して70%以下になる時期」と比べて早く訪れる場合は後者の時期に

    なります。

経理処理のまとめ

 保険契約のタイプごとの経理処理の仕方をまとめてみると次のようになります。解約返戻金がないタイプの保険契約では保険料は全額損金になります。面倒なのは解約返戻金があるタイプの保険契約です。

  解約返戻金なし・ピーク時返戻率50%以下 <Aタイプ>

全額損金算入

解約返戻金ありのタイプ

50%<ピーク時返戻率≦70%

 <Bタイプ> 

70%<ピーク時返戻率≦85%

<Cタイプ>

85%<ピーク時返戻率

<Dタイプ>

  年平均保険料が、
30万円以下 30万円超
全額損金算入

保険期間の始めから4割の期間

(一部資産計上が必要な期間)

保険期間の始めからピーク時返戻率になるまでの期間

(一部資産計上が必要な期間)

保険料の40%を資産計上

(60%を損金算入)

保険料の60%を資産計上

(40%を損を金算入)

支払保険料 × ピーク時の返戻率×70%を資産計上

(保険期間の始めから10年間は90%を資産計上)

資産計上が必要な期間が終了してから一定期間
この期間の支払保険料を全額損金算入

保険期間の始めから7.5割経過後から保険期間の終わりまで

(取崩期間)

解約返戻金が最高額になる機関等の経過後から保険期間の終わりまで

(取崩期間)

(この期間の支払保険料の額+これまでに資産計上した保険料の合計額の均等取崩額)を損金算入
 

 実務的な対応は?

 通達改正は「全損つぶし」などと揶揄されるように、改正によってこれまでのような保険を使った節税対策は大きく制約を受けることになります。

 改正により節税が封じ込められるばかりでなく、保険をめぐる経理処理が極めて煩雑になり、会社の事務負担が増加することは否めません。特に、長期にわたる保険期間の中途で複数回にわたり経理処理を変更しなければならないことや、変更の時期が契約時から相当期間経過してから到来することなどにより、会社は保険期間の経過に応じて経理処理をチェックする必要に迫られます。保険会社の中には大同生命のように契約後の経理処理についてきめ細かいサービスを提供しているものもありますが、多くの保険会社は契約後の経理処理について十分なフォローをしているとは言えないのが現状です。改正後は、勘定科目内訳書の摘要欄に次回の経理処理変更の予定を記録し、備忘事項として毎期繰越すなどの実務的な対策が必要になるものと思われます。

2019.9.21