平成28年度の消費税の改正で、1000万円以上の高額特定資産の仕入れ等をすると、その後2年間は免税や簡易課税の適用を受けることができなくなります。PFI事業を行う特定の法人の節税を封じるための改正といわれていますが、一般の事業者にも影響が大きく、今後高額な資産を仕入れ等する際には注意が必要です。
改正の内容について
これまでは、事業者は建物や高額な棚卸資産の仕入れ等をする場合に、その仕入れ等をした課税期間に消費税の原則課税を適用して多額の税額控除を受け、その後の課税期間については簡易課税を選択して消費税を少なくすることが合法的に行われてきました。悪い言い方をすれば、高額資産を仕入れ等して消費税の還付を受け、その後は簡易課税に切り替えて消費税を少なくする、「還付逃げ」が行われてきたのです。
改正では、事業者が、平成28年4月1日以後1000万円以上の棚卸資産や調整対象固定資産(後述)を仕入れ等した場合は、仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、仕入れ等をした課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで(要するに翌年と翌々年の2年間)は、免税や簡易課税の適用を受けることができないこととされました。
平成22年度の改正(調整対象固定資産)との違いは?
平成22年度の税制改正で、課税事業者選択届出書を提出した事業者と資本金1000万円以上の新設法人は、調整対象固定資産の課税仕入等を行った課税期間の初日から原則3年間は、免税事業者になることも簡易課税を適用することもできなくなりました。これはいわゆる「自販機節税」を封じ込めるための改正で、記憶に新しい方も多いと思います。
ところで、このたびの平成28年度の改正は、平成22年度の改正と比べてみると、節税封じ込めという目的は同じですがいくつかの相違点があります。
① 制限を受ける事業者の違い
調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合に免税や簡易課税の適用が制限されるのは、何もしなければ免税であるのに敢えて課税事業者を選択した事業者と,資本金1000万円以上の新設法人に限られます。
これに対して、高額特定資産を仕入等した場合に免税や簡易課税の適用の制限を受けるのは、免税事業者を除くすべての事業者です。
② 対象となる資産の違い
調整対象固定資産は、棚卸資産以外の資産で、建物および附属設備、構築物、機械および装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具、器具備品、鉱業権その他の資産で、一の取引単位の価額が100万円(消費税抜き)以上のものをいいます。つまり、100万円以上の固定資産が対象になり、棚卸資産は対象からはずされています。
これに対して、高額特定資産は、棚卸資産および調整対象固定資産のうち1000万円以上のものとされています。つまり、1000万円以上の棚卸資産と固定資産が対象になっています。
③ 資産を取得する時期の違い
課税事業者を選択した事業者が調整対象固定資産を仕入れ等した場合は、課税事業者となった課税期間から2年を経過する日までの期間に開始した各課税期間中(要するに通常は課税事業者になってから2期間中)に調整対象固定資産を仕入れ等した場合に、免税と簡易課税の適用が制限されます。したがって、課税事業者になってから3期目に初めて調整対象固定資産を仕入れ等すれば、4期目は免税事業者になれますし、簡易課税を選択することもできます。
これに対して、高額特定資産の場合は、高額特定資産をいつ取得したかにかかわらず、仕入れ等をした課税期間の翌期と翌々期の2期は免税事業者にはなれませんし、簡易課税も選択できません。
一般の事業者に対する影響は?
このように、高額特定資産を取得した場合は、調整対象固定資産を取得した場合に比べて、対象となる資産の価額が100万円から1000万円にハードルが上がったものの、制限を受ける事業者が免税事業者以外のすべての事業者とされたことや、対象となる資産が棚卸資産にまで拡げられたことで、制限を受ける事業者が増加するものと思われます。
<例1>
長くクリーニング業を営んできたA氏は簡易課税により消費税の申告をしてきましたが、このたび8000万円で建物を建築して1階をクリーニング店とし、2階をテナントとして賃貸することにしました。そこで、事前に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出して簡易課税の適用を受けることをやめ、原則課税により申告をして消費税の還付を受けました。
このような場合、改正前であれば、次の課税期間から再び簡易課税に戻ることができたのですが、改正により翌2年間は簡易課税を適用して消費税の申告をすることができなくなりました。
<例2>
新たに設立された資本金1000万円のB社(不動産業)は、建物を仕入れて顧客に販売する事業を行っています。設立第1期目に建物を5000万円で仕入れ、第2期目にこの建物を6000万円で販売しました。第1期目は原則課税により申告をし、消費税の還付を受けました。
この場合は、改正前であれば、B社は第2期目について簡易課税を選択して、みなし仕入れ率による仕入税額控除を適用することができました。建物は不動産業を行うB社にとっては棚卸資産ですから調整対象固定資産には該当しないからです。
ところが改正により、1000万円以上の棚卸資産が高額特定資産とされたため、第2期目は消費税の簡易課税を選択することができなくなりました。
2016.5.10